赤ずきん〜もう一つのおとぎ話〜
それから毎日。
赤ずきんは
飽きずに森へ来た。
小さな背中。
いつもの花畑。
同じ場所で待つ君。
君と話したことは全て
他愛ない話だったような気がする。
あの木になる実は
美味しいとか。
あのお花畑には
綺麗な蝶が飛んでるとか。
それでも俺が話す言葉の
ひとつ一つに目を輝かせて
身を乗り出して聞き入る君。
にっこりと頬を染めて笑って
時々考えたような表情
まるで百面相のように
くるくると変わる表情。
そしていつだって君は
まっすぐ
射ぬくように見つめる。
そんなまっすぐな瞳から
いつしか
……目を背けることが
出来なくなっていた自分。
こんなにまっすぐに
見つめられることが
今までに一度だって
あっただろうか?
俺の全てが君にとって
新鮮であるように
君の全てが
俺にとって新鮮で
君の全てに反応してしまう。
そして、いつしか
俺は
君を食べようとは
思わなくなった。
あんなに…
あんなに食べたかったはずなのに。