ふいうち
見事、そいつの左頬にクリーンヒットした俺の拳に、また裸の女が悲鳴をあげた。

当の本人は、みっともない姿で倒れこんでいる。





「のり、もう、いいんだってば・・っ、」

「なにがだよ、気がすまねえ!」





今度は俺に抱きついて、嗚咽をこらえながら泣きじゃくりはじめた奈々緒に、とうとう俺は手を止めた。





「ちがう、その・・・ヒトに赤ちゃんが、」





ここでやっと俺は察した。

奈々緒が妊娠したんじゃなくて、目の前にいる女が妊娠したんだって。





だけど、どう考えても納得がいかなかった。

付き合っていたのは奈々緒のはずで、他に女はいないはず。

それなのに、結果として浮気していたあげく、その女にガキができたから、別れてほしいだと?

ふざけるな。





俺は座りこんだ奈々緒の肩を抱いて立ち上がらせた。

一刻も早くこの場から奈々緒を解放してやりたかったから。




開きっぱなしのドアの向こうに奈々緒を先に出して、俺はもう一度振り返った。





「こんな男が父親なんて、ガキがかわいそうだな」







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