~ ☆プレーチェ★ ~
そのまま開けっ放しにされていた部屋の扉の外に母さんを追い出して、力一杯扉を閉めた。
「……聖……」
部屋の外から出された母さんからは最後に、また悲しそうに俺の名前を呟く声が聞こえた。
そんなのが聞こえてきても、開け気なんかない。
黙って気配が消えるのを黙って待っていた。
シーン―――と、数秒静寂が続き。
それでもまだ立ち去ろうとしていなかった母さんの気配が、やっと静かに去っていく足音が聞こえてきた。
警戒してじっとしてた俺もそれを確認すると扉から離れる。
襟・パケット付のシックグレーパジャマをボタンが千切れてもいい勢いでベッドの上に脱ぎ捨てた。
ベッドの横にある黒い壁面収納家具にパンツ一枚で歩いていく。
これは壁と天井を利用した全面的に白い壁面収納がフラットな扉や、厚みのある前板などで8段の引き出しがあるタンス2セット
鏡付きクローゼット5セットが横に並び天井から床まで壁一面が統一されている
結構大きい収納セットだ。
その中のタンスから引き出しを引き、服を取り出して閉めた。
ネックの高さがちょうどいい白いハイネックTシャツ。
すっきりとしたブルーのブーツカットデニムパンツ。
薄茶色でネイティブなイーグルデザインので毛混であたたかく、前ファスナー仕様だからサッとはおれる上着。
それらをさっさと着ながらも俺はずっとイライラしてた。
母さんの、まるで人を哀れむようなあの目、あの声……。
あんな声…聞きたくもない。
いつもいつも、ああやってしつこく俺を怒鳴り起こしてきたかと思えば
俺の言葉一言ですぐにあんな顔でまるで傷物に触れるみたいに見つめてきて………
鬱陶しいったらない!!
こんなイライラする毎日が一日の朝を迎える日程で、本当にとつくづく思う。
服を着たらクローゼットの鏡を見ながら適当に、ショートで軽く段切りしてるからはね気味の黒髪に手を入れ整えた。
前髪は長いからいつも通り左側に分ける。
自分のその右眼の下にある小さな黒いほくろが一瞬眼に入ったけど、これは生れつきのもの。
見慣れているからすぐに鏡からも離れ、着替えがすんだから部屋の扉を開け出た。
オープン手摺の階段をトントンと降りて行くと
家と繋がって経っている喫茶店からさっきの母さんの声と、店によく来る客の笑い声が聞こえてきた。
…俺の家は俺が生まれる前から喫茶店をやっているんだ。
「………ですよ~(笑)!」
「それは……ですね!…それから?」
「……さん~、こっちお願いします~!」
「はい~!」
…………。
『コン・ラ・ルーナ』
それがうちの店の店名で、朝早くからあんな風にして客が来ては、母さんと仲良さげに会話を楽しむ声が聞こえてくる。
そんな声が聞こえてくる扉を一睨みしてからフンッと鼻を鳴らして、俺は裏口玄関に向かう。
そこの壁に掛かっている帽子と袖にファーが付いたコートと、ボリュームのあるレッド系タータンチェックのマフラーを取り外した。
俺はもう……二度と店の手伝いなんかしないんだ……。
そんなことを思いながらコートをはおり、マフラーを首に巻いて、裏口から雪の積もっている真っ白な外に出た。