ある日の暇つぶし

「私の名前は………」

金髪が聞いてもいない名を名乗る。

いや、普通の事だろう。普通、相手が名乗ったら自分も名乗るものだ。


黒髪も名前を口にしたようだが雑踏にかき消されてしまった。

丁度良かった。

黒髪の名前は、私の耳に入れてはいけなかった。

幸いにも、金髪が黒髪を名前で呼ぶ事なく、カラオケまでたどり着いた。

愛想の良い店員に連れられて、狭い個室に通される。


あぁ…しまった…
今日は何も凶器になるようなものを持っていなかった。


鋭利な刃物が一番殺りやすかったが、仕方がない。

今日は殴打して殺してしまおう。


今日の凶器は楽器の入ったハードケースにした。
血が付くのは難儀だが、仕方ない。

黒髪が座り、隣りに私が座り、私の隣りに金髪が座った。


私は悠長にカラオケをしに来たわけではない。

私は私の目的を果たし、そうそうに帰るとしよう。

悪いがカラオケは残された金髪だけで楽しんでもらおう。


私は足元に置いてあるハードケースを手に持った。

中味は5キロほどしかない。ケース自体の重さを入れると何キロになるかは知らないが、おそらくこれで人を殺すには一撃では不十分だろう。

私には相手をなぶり殺すような病的な殺人癖はない。


出来れば一撃で、迅速に仕留めたい。つまり、即死に近い仕留め方が好ましい。

しかし、人間の手で即死させるには、やはりそれなりの凶器が必要になるのだ。

しかもそれなりの凶器というのが入手が困難なものばかりだ。



私の考えとは裏腹に、結局はいつもなぶり殺す形になってしまう。



私はハードケースを高々と持ち上げ、隣りに座っている黒髪を見る。

黒髪は驚きと怯えの混じった表情をしていた。

その瞳に、私ははっきりと死を見た。


誰一人言葉を発さず、カラオケルームにあるテレビだけが騒ぎ立てていた。

監視カメラがついているだろうか?

まぁそんな事は関係ない。

ついていようと、ついていまいと。


どこを殴れば致命傷にまで至るか、考えてから殴るべきだったのだろうが、私はそれすら面倒くさかった。

これから行われる行為を考えると、私の腕は無意識に振り下ろされた
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