ある日の暇つぶし
鈍い音がした。
もっとも、その音を聞いたのは私と黒髪だけだろう。
室内はスピーカーから流れる音で充満していた。
私の振り下ろしたハードケースは、黒髪の側頭部に当り、左肩まで振りぬかれた。
黒髪はその鈍痛に顔をゆがめる。
金髪の吐息程度の悲鳴がもれる。
私は続け様にハードケースを振り下ろした。
今度は額あたりをしっかり角でとらえた。
しっかりした手応えはあったが、黒髪は気を失うこともなく、声にならない悲鳴を上げ、私から逃げようとする。
しかし黒髪の背後は壁。正面には私。
黒髪が逃げられる可能性はゼロに近い。
人間はこういった危機的状況に陥ると、周囲がわからなくなる。
特に、殺される となると。
黒髪が私に殺されるとわかった瞬間、黒髪の頭の中には私しかいなくなる。
もう黒髪はここがカラオケだと言うことも、金髪がいることも、背後は壁だと言う事も、自分が誰なのかさえわからないだろう。
私はもう一度、ケースを振り下ろす。
鈍い音に混じって、嘔吐するような気持ち悪い音が聞こえた。
ケースには血が付着し、黒髪の頭からは血が流れ出している。
2回殴ってやっとこれか…
黒髪が頭から血を流しているのを見て金髪がやっと事態を把握したらしい。
私の背後で奇声を上げ始める。
しかし、その場からは動こうとしない。
小さく丸まって、その表情は恐怖にゆがんでいる。
しかし、見物人としては最高だ。
私はまたその頭部めがけて殴りつけた。
グシャっと嫌な音を立て、黒髪は気を失ったらしい。
グッタリして動かなくなってしまった。
私は息が上がっていた。
やはり凶器が駄目だった。
私は後悔した。
まさか殴り殺すのがこんなにも手間だったとは。
ならば早く終わらせよう。
早く帰って風呂に入りたい。
私は力の限り、何度も何度も殴りつけた。
動かなくなった黒髪めがけて。
黒髪は全身を痙攣させ、口からは泡をふき、目、耳、鼻、全身の穴と言う穴から体液を放出し始めた。
室内は異臭であふれ、流れでた血液は殴るたびに部屋中に飛び散った。