ある日の暇つぶし
私は背後に金髪がいるということも、ここがカラオケだということも、私が誰かさえも忘れた。

もう何回殴りつけたかも忘れた。

血が飛び散って服を汚しても、部屋が異臭にあふれかえっても、私は気にならなかった。


しばらく殴ると、黒髪は動かなくなった。

もう痙攣もしない。

だがまだ死んではいない。

顔はグチャグチャになり、これでも生きているのだから人間という奴は頑丈なんだろう。

しかし果たしてこれは人間なんだろうか?

そんな疑問も浮かんでくるというもの。

これがほんの数十分前は人間だった。

しかし、あと数十分もしないうちに死体になる。

死体になってしまえば、それは「人間の死体」かもしれないが、「人間」ではない。


いわば、今、目の前に横たわっているコレは、その間と言えるかもしれない。

ちなみに私はコレを言い表す言葉なんか知らない。

人間の定義とか、小難しい事を考えれば、コレはまだ人間と呼ばれる範囲なのかもしれないが、私にとっては人間ではない。


そんなくだらない思考をしながらも、私は手を止めなかった。

溢れ出る血の量は増し、ますますコレは原型をとどめなくなる。


もはやそれは肉塊と呼べるほどだ。


もう死んでいるだろう。
私は手を止め、死体に指を這わせた。

冷たい。


私は一呼吸置くと、返り血を浴びた自分の姿を見た。

問題ない。
クリーンニングにでも出せばいいだろ。

血まみれの服をクリーニングに出すなんて、普通の殺人犯なら出来ないだろう。

しかし、私には出来る。

私は既に肉塊に興味はなくなっていた。

その時、私の思考にあったものは、髪を黒く染め直すための美容室の料金と、血まみれの服のクリーニング代だけだった。

私は帰る事にした。

振り返ると金髪がいる。

金髪は自分も殺されると思っているのだろう。

最初はその予定だったが、金髪は殺せなくなってしまった。

面倒になったわけでもない。

もしあそこで名前を聞いていなければ、同じように殴り殺していただろう。

私は異臭が漂う部屋を出た。
振り返ると金髪がまだこちらを見ている。


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