ある日の暇つぶし
部屋は血まみれになり、そこは完全に凄惨な殺人現場だ。
若手の刑事なら嘔吐してもおかしくない。
私はそんな光景を想像し、笑みをこぼした。
血まみれの服を着て、さっきまで人を殴り続けていた血まみれの楽器ケースを持ち、家路についた。
どこの世界に血まみれの服を着て帰る殺人者がいようか。
どこの世界に目撃者を残して、しかも名前まで知っている目撃者を残して現場をさる殺人者がいようか。
あの部屋には防犯カメラだってあったに違いない。
たくさんの証拠を残してきた。
それはどれも決定的な証拠で、簡単に犯人を特定出来るものばかりだ。
普通ならすぐ逮捕されるだろう。
翌朝には刑務所だ。
しかし、それは普通の殺人者なら、の話だ。
私は普通の殺人者ではない。
私は、絶対に捕まらない。
理由なんかない。
今まで何人もの人を殺してきた。
その度、証拠は全て残してきた。
目撃者もたくさんいた。
全国ニュースになり、私の似顔絵が指名手配で張り出されたこともあった。
その似顔絵、あまりにも似ていて驚いたのも記憶に新しい。
しかし、私は捕まらなかった。
逃げ回っているわけじゃない。
普通通り生活しているだけだ。
私のアパートのドアをスーツを着た警察がノックをした事もないし、パトカーのサイレンが迫って来た事もない。
私はなぜ捕まらないのか、不思議に思った事もある。
しかし今は何も不思議に思わない。
私は、捕まるまで人を殺め続けるだろう。
私が人を殺し続けた理由も、なにもかもが、私が逮捕され、死刑台に送られた時に明らかになるはずだ。