多重書きの二等辺三角形

(カラン…)


店の扉を開けるといつもと同じ風景がそこにはあった。


コーヒーの匂いと木の匂いが混じった特有の空気。


違うのは、横にひかりがいないってことだけだった。


『純平くん。今日は卒業式だよね?本当におめでとう。これからもっともっといい男になるんだよ。』


「マスター、何にもめでたくなんてないよ…。」


俺がそんなことを言うと、マスターは何も言わずに温かいコーヒーとサンドイッチを出してくれた。


『そっか。』


そう言っただけで、マスターは俺から何も聞こうとしなかった。


俺の心の中に、変に踏み込んでこないマスターの優しさを感じたんだ。


落ち込んでる事情なんて何も話してない。


でも全てを悟ったかのようにマスターはこんなことを言い出したんだ。


『強そうに見える人ほど、本当はモロく弱かったりするものだよ。』


俺には言葉の意味がわからなかった。


中学生の俺にはその意味が全くわからなかったんだ…。

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