優空 -ユウソラ-
さほど歩きまわることはなく、俺の足は公園で止まった。
とにかく、暑い。
この炎天下の中、これ以上歩いていれば本当に体調を崩してしまうと思った俺は、この公園で一休みすることにした。
水道で喉を潤し、木陰にあるベンチに寝そべる。
……静かだ。
ジージー、と油蝉の鳴き声が聞こえるものの、気にはならない。
きっと人の気配が全くないから静かだと感じるのだろう。
俺はベンチに寝そべったまま、しばらくぼーっと緑の葉っぱごしに空を見ていた。
時折風に葉っぱが煽られる。
その葉と葉の隙間から差す日の光が眩しくて、でも空は見上げていたくて、俺は目を細めながら空と向き合っていた。
「……これ、描くか」
いつも絵の題材は気まぐれで決める。
正直な話、それが空ならどんな空を描くことになってもかまわないのかもしれない。
とにかく、俺が今日描く空は決まった。
俺はスケッチブックを開き、ベンチに寝そべったまま色鉛筆の茶、緑、黄緑、黒の色を持った。
白い紙の上で、色鉛筆を走るように滑らせる。シャッ、シャッ、と音を立ててつつ、幾つもの線が重なり合いながらだんだんと形を作り上げ……スケッチブックに描かれたそれは、下から見上げた木になった。
「ふぅ……」
汗が額からベンチに滴り落ちた。木陰と言っても夏だ。暑いのはしかたがない。