優空 -ユウソラ-



 次は空を描くために、青系統の色鉛筆と、白の色鉛筆をスケッチブックを持つ左手の指に挟んだ。

 そして俺がスケッチブックとにらめっこをしていると、


「こんにちは」


 突然、可愛らしい声が空から振ってきた。


「ん?……おわっ!」


 俺がスケッチブックを視界からどけると、意外と近い位置に見知らぬ少女の顔がある。

 垂れ下がる少女の長めの黒い髪が、俺の顔に触れるかという距離だ。


「んなっ、な、なに…?」


 それに、ぱっちりとした少し大きめの可愛らしい目にいきなりのぞき込まれていたら、たいていの人間は俺のようになると思う。


「絵、描いてたんですよね?」


 少女は顔をあげ、俺の左手にあるスケッチブックを指差していった。

 よくみれば、セーラー服姿の女子高生らしきこの少女もスケッチブックを抱えている。


「あぁ」


 俺の返答に、人なつっこい子犬みたいな笑顔を返す少女。


「アハッ♪同類発見です。なんだか嬉しくなっちゃいますね♪」

「そ、そうなんだ」


 やけにテンションが高い少女。本当に絵が好きなのだろう。
 その純粋さに、俺はなんとなく羨ましさを感じた。


「あの!絵、見せてもらってもいいですか!?」


 生き生きと輝く少女の瞳。こんな目をされたら、さすがに見せないわけにはいかない。


「わぁ…!」


 俺がスケッチブックを渡すと、少女はパラパラとページをめくり、その一枚一枚の絵に感激するような声をあげ、見入っていた。


「すごいです!」


 誰かに絵を見せるのなんて久しぶりで、少女のありきたりな歓声がなんだか照れくさかった。



 
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