新撰組の姫君 〜もしもの世界・斎藤一編〜
「…なぜ泣いていた?」

一君が部屋に入った瞬間に聞いてくる。

「寂しく感じたのです。屯所内には当たり前としてある光景が、もう家では見られないのかと思うと、どうしようもなく消失感に襲われて。」

一君に言い訳は通じない。

だったら素直に伝えてしまったほうが気が楽だ。

「…そうか。」

そう呟いた一君は私の頭を撫ぜる。

「子供扱いしてます?」

「…泣いているときは誰だって子供のようなものだろう。」

そう言って少しだけ笑った一君。

「…だから、幼少の頃を思い出して、思いっきり泣け。泣いたら、思いっきり笑え。それでいいんだ。」

『思いっきり泣いて、思いっきり笑え。』

その言葉は、すんなりと自分の中に入ってきて、泣いてしまうことが正解のような気分になった。

「…っぁ。」

声を出さないように、泣いた。

声を出すことだけはしない。

泣きながら誓った。

『兄さんの仇を打つ。』

兄さんを殺した人を、私は許さない。

いつかきっと。

それを原動力に、生きていこう。

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