いつか、きっと。
きっと、みんなから慰められたりするんだ。
―――辛かったね。
なんて。
今の私では、そんなこと言われたって、きっと何も言い返せない。
笑ってごまかすこともできない。
「あら皐月。もう行くの?」
「ん。行ってきます」
「気をつけてね」
なのに、どうして私はあの部屋から出てしまったんだろう。
―――どうして?
そんなの、決まってるくせに。
「…皐月」
テノールの少し冷たい硬質の声。
顔を確認なんてしなくても、声だけで分かる。
「サク」
ほら、やっぱり。
黒髪の男が、私の声に反応して片手を上げる。