いつか、きっと。
「…少しね。期待してたんだ。もしかしたら…って」
「皐月……」
「でも…ダメだった……」
声を振り絞り、そうつぶやくと空を仰いだ。
雨だったら良かったのに…
朝と同じことを思った。
冷たい雨に打たれれば、現実の重みを知り得ることができたかもしれない。
くすんでしまった私の世界が、色鮮やかな世界へ戻るかもしれない。
私のひび割れてしまった心が、潤うかもしれない。
……何より、あの人に会える気がするから。
雨が好きだった、あの人に。
「―――鏡夜(キョウヤ)……」
静かに愛おしい人の名を囁く。
ふわりと屋上を抜ける風が、制服のスカートを持ち上げる。
フェンスから離れた手の平から、錆びた鉄の匂いがした。