【短編】『おもいで文集』
ベランダに出ると、
いつもの小鳥の『チュン』の鳴き声が全く聞こえない。

その代わり若い男と女の声が聞こえた。


『好きだよ!』の言葉が近所中に響いている。
『めっちゃ好きィ~』
女の甲高い声が響く。
そして男は『好きだよ』と叫んで道の真ん中でキスをした。

当たり前のように路上キスをしていた。

まじうざい。
すごくうるさい。

『好きだよ』と叫ぶような声聞いてて、痛かった。


でも痛みを感じたのは、うるさいからだけの理由ではなかった。


気づいた。

気づいてしまった。

なんか見覚えある顔。


よ~く目を細めて2人をみると…



なんと
男は、私の彼氏だった。

一昨日、私に『好きだよ』と何度も囁いた彼だった。

同じ言葉を私に言ったはず。


目を細めるのを止めた。


普通の目でジっと彼をにらんだ。

一瞬こっちを見たが、なにもなかった。

私はムカっときたから
『死ね!』と叫んだ。

彼はまたこっちを見たが、知らないふりをして堂々と歩いている。

言葉を選べば良かった。
とたんに後悔した。

でもとっさに出た言葉がそれだった。
< 3 / 30 >

この作品をシェア

pagetop