ゼブラ
鈴木刑事はぐっと詰まった。
それを言う事は出来ない。現在、彼の上司たちが捜査している所を勝手な憶測を立てて答える事は。
構わずに縞村博士は続ける。
「私が散歩から帰宅した時……ああ、時間が要るのだな? 15時53分だよ。時計を確認したから間違いない。既にあの男は死んでいた。庭に、何の足跡も残さない状態で不法侵入し、ああやって壁に血をぶちまけて」
猛然と喋り出した博士の言葉をメモしていた鈴木刑事は、ふと手を止めて尋ねた。
「通報から随分と時間がありますが、その間何していたんでしょうか」
何気ない疑問だったのに、二人の間に意味深な視線がやり取りされ、男が答えた。
「観察だ。君たちの言う現場検証、というやつだよ。勿論、何も触れてはいない。現場はきちんと保存してある。っと言っても、あの植木鉢からは私の指紋が出るだろう。私の物だ。璃々子くんの分も当然な。それから」
そこまで一息で言い切った男は、圧倒されている鈴木刑事に顔を寄せて静かに囁いた。
「私は、犯人ではない。なぜなら、私はあんな見ず知らずの人間を思いつきで殺すほど、忍耐の無い人間ではないからだ」