ゼブラ
「はい。私が買い物に出かける前……14時半ぐらいには、あそこ通りましたけど、何も無かったです」
「そうかい。で、アンタは気付かなかった?」
問いは博士に向けられていた。しかし彼は肩をすくめるだけだ。
「知らん」
「まあ、博士って基本何も見てないですしねぇ」
ほのぼのとした会話を始めた二人組を放置し、菊地原警部は鈴木刑事を呼んだ。
姿勢を正した彼を蹴り立てると、部屋を後にする。
騒がしく退室する二人の姿を見るともなく見送っていた璃々子は、いつの間にか入口に優男が立っているのに気付いた。
その彼もこちらの視線に気付き、軽く会釈してくる。
「あれでも鈴木くんは警部のお気に入りなんですよ。根性ありますからね、彼」
「そんなことより、事件はどうなったのだ。まさか本当に、璃々子くんの推理通りか?」
「その可能性は高いです。衣服で隠れていましたが、遺体の右半身には強打した痕があり、肋骨も折れています。鑑識の話によれば、致命傷は外傷性ショックによる多臓器不全で、頭部外傷ではないようですから。それに、爪に僅かな塗料が付着しているようですし」
そう締めくくった男は、まだ何か言いたそうな博士を笑顔で黙らせた。