ゼブラ
「これから交通課と合同捜査ですよ。こんな住宅街を猛スピードで、しかもブレーキもろくに踏まずに轢き逃げした凶悪犯を、捕まえなくては……ね」
一見して優しそうとしか見えない表情から、思いつかないような暗い笑みを一瞬覗かせた男は、玄関の方から聞こえる菊地原の怒鳴り声に反応して、直ぐに元の温和な雰囲気に戻った。
「東! 何、油売ってんださっさと戻るぞ!」
「はいはい、分かってますよ警部。……それでは、お騒がせしましたね、お二人とも」
また何度か聞き込みに来ますので、その時はよろしくお願いします。
あずま、と呼ばれた男は最後にそう告げると、ゆるりと微笑んで頭を下げた。
玄関を出ていく音。
窓の外に視線を移せば、まだ何人かの刑事や鑑識の人間は残っているものの、大多数が引き揚げていく。
死体も、恐らく回収されてしまっただろう。
璃々子はソファから立ち上がった。長い間座っていたため、腰の筋肉が強張っている。うーんと伸びをすると、隣の白黒頭を見下ろした彼女は、普段の笑顔を浮かべて言った。