すみれの花
「ガラッ」
誰もいない教室に、中貴原がトレーナーを取りにやってきた。
いつもならこうしてドアをあけるとすみれがいたのに…。
いけない。いつもすみれの事を考えてしまう。
切なくなるだけなのに。
でも、すみれのことが頭から離れないんだ。
─恋してる証拠。
ほんとは“好きだ”っていいたい。
けど..自信がなかった。
中貴原はゆっくりとすみれの席に向かう。
机を見たとき、中貴原はすみれの机のいくつもの水滴が目に入った。
─涙…?
あいつは、ここに水滴がついたままであることをきっと望んでいない。
中貴原はそう思うと、
袖で涙を拭った。
なんで涙…?
もしかして、もしかして泣かしてるのは、俺?
中貴原はトレーナーをほっぽって、ダッシュで階段を駆け下りた。
涙がまだ乾いていなかったから、
そう遠くじゃないはずだ。
今行かないと、きっと後悔する。
目に見えないなにかが、中貴原を動かしていた。