極超短編劇場
雲の海を月の光りが照らしている。

「見事な物だなあ。」

操縦室からうっとりと雲を見つめるヒルの呟きを隣のルースが笑う。

「今日はやけにしんみりしてるなヒル。」

「いや、今日嫁が予定日なんだよ。」

照れながらヒルが答える。

「そりゃ、めでたい・・・でも残念だな、任務変わって貰えば良かったのに。」

「そうは行かないよ、出産に金もかかるからな。」

頭を掻きながらヒルが笑う。

雲は途切れる事なく続いている。

時折、少し離れた所に友軍機が見え隠れする。

「いや、しかし有難い雲だよ。」

ルースは満足気に頷く。

「奴等に俺たちの姿は見えないぜなあ、ヒル。」

ヒルも神妙な面持ちで頷く。

「確かに・・・神に感謝しなければな。」

ヒルの言葉を聞きながら計器を横目でみていたルースの表情が引き締まる。

「投下ポイントに到達、総員位置につけ。」

伝声管に向けたルースの声が後方に伝わる。

「さあ、早く帰って子供を抱いてやろうぜ。」

「だな。」

爆撃機のずんぐりした機体が雲を割り降下する。

うっすらと街の光りが見え始める。

ヒルは、爆撃ボタンに指をかけながら思った。

『ああ、星空の様だ。』
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