極超短編劇場
身体が重く、ベッドに吸い付けられている。

瞼は、まだ半分も開いていないと云うのに、頭のゴワゴワとした痛みだけは実感する。

既に明るい部屋にふと我に返る。

イルカの泳ぐ時計は、九時半を過ぎている。

その天辺にあるアラームボタンは凹んだままだ。

完全に遅刻。

やってしまった。

携帯を確認すると会社からの着信が表示されている。

ゆるゆると発信ボタンを押す。

3コールで繋がる。

上出来。

「はい、株式会社○○です。」

「総務の先村ですが、市山係長をお願いします。」

熱が有ると適当な言い訳をすれば良いかな。

「お電話代わりました市山です。」

お前のせいだから、意図を汲めよ。

「先村です、本日熱が有るので休みます。」

少し鼻声になる。

何だか本当に体が熱い気もしてきた。

「大丈夫か?」

「お前のせいだ、さっさと電話切れ。」

少し小声で吐き出す。

昨日の大喧嘩を思い出し、少し腹が立ってきた。

帰ってしまった後、あんなに泣いてしまったのに。

「あほたれ暖かくして寝てろ。」

会社の電話でのそんな会話。

そんな事で少し幸せな気分になった。
< 41 / 63 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop