極超短編劇場
風を切る音で目が覚めた。

切り裂かれた風の悲鳴は常に聞こえているが、気流が少し変わったのだ。

目を開けると其処は一面の薄い青。

僕は雲の上に居る。

50センチ先に有る風防の外は、きっと刺す様な冷気に満ちている事だろう。

大型攻撃機タイタンの丁度中央に据えられた銃座の天蓋は三百六十度をみわたせる。

其処にスッポリと納まった僕は、まるで空が僕だけの物になったような感覚。

一番無防備で、一番空に近いポジション。

そこからタイタンの上半分を戦闘機から守るのが僕の仕事だ。

空気の変化は相変らずで、こめかみがピリピリする感覚が続いている。

ふいに大きな影が視界を塞ぐ。

一瞬、背面飛行したそれは僕のすぐ真上で安定する。

FF-06 ゼフィルス戦闘機だ。

『雲雀より鷹の背、起きてるか?』

「雲雀へ、起きてるよ今は。」

雲雀は上を飛ぶゼフィルスとパイロット、高梨のコードネームだ。

いつかは、戦闘機に乗って自由に空をとんでみたい。
そんな事を考えていた時、高梨のゼフィルスが一瞬閃光を放つ。

緩やかに高度を下げるゼフィルスの操縦席が肉片で紅く染まっているのが一瞬だけ見えた。

「敵襲、敵襲。」

無線に怒鳴りつけながら新に雲から浮き上がった敵に照準を合わせる。

仇討ちではなく生きる為に。

三秒連射、弾は敵機のプロペラを砕きながらエンジンを潰す。

次の敵を求め銃座を右回転。

反転した時、頭上でポリカーボネイトの風防が弾け飛ぶ。

空が広がっていた。

地上からも、風防ごしにも見られない空が。

その一瞬だけは確かに空は僕だけの為に存在した。
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