そして、抱きしめて。

転機

『ゆき先輩、今日新しい人が来るらしいですよ!』

半ば興奮状態で、後輩の美里が近付いて来た。

会社内でやけにあたしに懐いてくる彼女。

あたしは人付き合いが大の苦手。

若い彼女たちの話題は急スピードで駆け抜け、追いつこうとしてもあっという間に次の話題になっている。

ファション、芸能関係、恋愛。

だからといってあたしもそれなりの流行には付いていっているつもりだ。


美里に呼び止められ、足早に歩いていたのを止めた。


『新しい人?』

『はい!他者からの引き抜きらしいですよぉ』

『こんな時期に?』

『新人さんじゃないですよ~。27歳らしいです!』

こんな時期に新人が来るはずはない。
今は秋、何とも中途半端な時期だ。

『そう…。』

『あれ?先輩あんまり興味ないですか?』


『だって若い子じゃないんでしょ?(笑)』

冗談混りに答えた。

『えー。』

何だか腑に落ちないといった彼女は、朝礼の合図とともに走り去って行った。


『あたしも早く行かなきゃ。』


ハイヒールの踵を鳴らして足早に急いだ。



他社から新しい人が来る事は知っていた。


廊下の角にある喫煙スペースでタバコに火を点け、ボーっとしていた時、若い女の子たちが噂していたから。

うちの会社は男性が少ない。
もちろん若い男も。

みんな既婚か、または中年ぐらい。

だから、それなりの若い男が入社してくるとかなりの競争率でここぞとばかりに若い女の子たちは争奪戦を繰り広げる。


そんな20代前半の女の子たちを見ると、若いっていいなぁと羨ましくもなる。



『今日からうちに配属になる朝野くんだ。自己紹介を』


一瞬身体が硬直するのを感じた。全身の血流が一気に上半身から下半身へどっと流れててくるようだった。


『今日からこちらにお世話になります。朝野新一です。よろしくお願いします。』

キャーという若い女の子たちの黄色い歓声が混り合って倒れそうになるのを感じていた。

…朝野新一。…

間違いない。

元彼だ…。


五年前と変わらない忘れられないその笑顔とともに、間違いなく彼はそこにいた…。


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