To my dearly beloved


過ぎる時間の速度は途轍もないのだが、仕事だけに向いていた以前とは全く違う日々。



それはきっと…いや、間違いなく。可愛くて仕方のない部下と出会ってから変化した。



ふとした瞬間、後悔に苛まれていた俺を前へ向けてくれたのも、大切な彼女のお陰だ――




「――ええ。確かに仰る通りですし、要望を叶えるのが私の仕事ではございますが。

現時点で希少な原料を用いてのサンプル品だけに、変更なさるのが賢明だと感じます。

そのご意見すべてを受け入れれば間違いなく、今後の材料確保も難しいですから…」


WEBを用いた韓国企業とのやり取りは今なお続き、それでも怯まない係長こそが彼女。



外資企業に身を置いていれば当然、相手は大概が強硬姿勢な者と向き合う事が常々で。



並大抵の労力では事足りず、見た目以上にハードで心身鍛錬の場であるというのに。



「ええ、もちろんですよ。

当社も別の方法を試作の上で、御社にご提案申しあげておりますよ。

そこで提案しますのが――多少の質低下は否めませんが、コチラの品でございます」


押しが強く滅多に意見を曲げない韓国企業に対し、丁寧かつ穏やかに事を進めて行く。



変更を強く勧める材料と出来あがっているサンプル品を手に、ニコリと笑っている。



ことさら多忙を極める、試作部の殺伐とした雰囲気へ身を置きながら奮闘する彼女。



女が係長になれるかと言われたそうだが、それを見事に撥ね退ける力があるからこそ。



誰よりも綿密に取り組んでいた日々を知る俺は、また“真帆バカ”度がアップする…。




「お話中失礼します。お久しぶりです、ミスター金(キム)」


「おお、黒岩君じゃないか!」


ようやく彼女の案を受け入れた担当者と話をすると、ホッとした真帆を一瞥して笑う。



また今回も頑張ってくれた分、今日のディナーは俺がお手製パスタを作りますか…。



 【エリートの軌跡SS★終】

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