To my dearly beloved


そもそも運転手に迎えを頼むべきだった、と今さら舌打ちをしてしまう。



専属の運転士なりタクシーなり使えというのに、未月は一切聞き入れない。



“勿体ないし、恥ずかしくて行けないじゃん!”と、意味不明な事を言うのだ。



俺にとって勿体ないの言葉は無縁だが、今は未月だってその生活をしているのに。



頑として譲らずに出掛ける奥さんには、ハァ…と今さらすぎる溜め息が漏れる。



平平凡凡とぬかす巨乳美人こそ、すでにコッチの世界でかなり有名なクセに――



「あ、未月か?」


「うん、どーしたの?」


「今どこに居るんだ」


運転中に何度もハンズフリーフォンで掛け直していれば、ようやく繋がった携帯。



そして駅に到着した俺は、ロータリーに路上駐車して携帯電話を手に歩きだした。



「うん、いま着いたから駅だよ」


「…改札に居るから、早く来てくれ」


「迎えに来てくれたの!?ありがとー」


イライラしていたというのに何故だ…。この呑気な声を聞くとすべてを忘れてしまう。



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