真偽の証明【公開】
江坂奏は、冷やかな笑みを口元にたたえた。
「姫野さんはさ、損する人間だね」
いきなり脈絡のない話に眉を寄せた。
「急になんの話?」
「賢く生きないと損してばかりだって気づいてる?」
江坂奏はこの話を続けたいらしい。
とりあえず私は頷いた。
「騙されたりしたら、損するなっては思う。私が騙されやすいって言いたいの?」
「もちろんそれもあるけど。真っ直ぐ、素直、曲がったことが嫌い、正義感が強い。そして信じやすい。これが姫野さん」
自覚症状皆無。
でも言われてみればそう思い当たるような節がある。
「少なくとも、真っ直ぐや素直ではないと思う」
前半の2つには特に心当たりはない。
むしろひねくれてるようにさえ思う。
でも江坂奏は首を横に振った。
「真っ直ぐだよ。ここに来る途中、俺に不快なことをしたって謝った。なんで謝ったのか。姫野さんには自覚がなくても、自分のしたことをちゃんと見つめ直してそれが悪いことだって判断したからだ。自分に対して素直。でも逆にそこが危うい」
「なら、そんな危うい私を選ぶ必要性はないじゃない。どうして私なの?」
なにか言わなきゃ、そう思って口に出た言葉は私の中で一番の疑問を発していた。
今までずっと不思議だった。
江坂奏とは数えるほどしか言葉を交わしたことがなかったし、ましてや男嫌いで通ってる。
自分以外の女の子なら、ホイホイ捕まるだろうにどうして私なのだろうか、と。
しかも、江坂奏曰く「危うい」私は逆に迷惑になる可能性をはらんでいるというのに。
「なんで。どうして。そんなの、姫野さんみたいな人が欲しかったからに決まってる」
「私みたいな?」
「そう。だから、ここまでしてる」
にわかには信じられない。
そもそも、まだどんなバイトなのか内容さえ聞いてないのだ。