放電
『放電』
 初キスの味はレモン味。
 好きな人に触れると身体に電気が走る。
 世の中には恋愛に関する数多の都市伝説があるけれど、あたしはここでこう言わせてもらおう。
「――んなバカな」
 そう言うと、目の前にいる親友の辻井があたしに呆れた目を向けてきた。
「あんた……あっりえないわぁ~」
「……なにがよ」
 むくれた声で反駁すると、辻井は唐揚げの刺さったフォークをあたしに向かってびしっ、と突きつけた。
「夢がないって言ってんのぉ」
「夢って……」
 今度はあたしが呆れる番だった。
「夢も何も、そんな非科学的な現象が起こるわけないじゃん。特に“好きな人の触れると電気が走る”だっけ? そんなん実際起こったら怖いじゃん」
「……やっだ、あんたバカ?」
 辻井は小さく目を見張った。
「そういうのは単なるものの喩えで、実際電気が走るわけじゃないのよ?」
「……そうなの?」
「そーよ。なんなら試してみたら? “羽鳥くん”で」
 うふっ、と笑いながら辻井は形のいい唇の中に唐揚げを丸々放り込んだ。
 言われたあたしは真っ赤になって俯いた。
「……んなことできるわけないでしょ。あたし今、話すだけでも精一杯なのに」
「そぉ? あたしはあんたたち結構いいセンいってると思うんだけど」
 言いつつ辻井は何か思い出したように手を叩いた。
「あー、そういえばぁ。あたしの初キスは確かにレモン味だったわぁ。まぁ彼が直前にレモンスカッシュ飲んでたってだけだけど。懐かしーい」
 きゃっきゃと騒ぐ辻井を横目にあたしは何故か嫌な予感がしていた。“懐かしい”っことはつまりそんなことはとっくの昔にすませちゃいましたってことで……。
「……あのさぁ、あんた今の彼と、ど……どこまでいってんのよ」
 ややつっかえながらもそう聞くと辻井は
「……聞きたい?」
と意味深な微笑みをあたしに投げて寄越した。
「やっぱいい!」
 あたしが慌てて断ると、辻井はにやにや笑いながら「それくらいさらっと聞けなきゃダメよぅ」とからかった。やはり辻井のほうがあたしより何枚も上手らしい。
 悔しくなったあたしは手に持っていたジュースをずごごご、と音を立てて飲み干した。

  *         *         *














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