放電
「実は眼鏡の色で揉めてるんっすよー。黒縁にするか銀縁にするか。俺はぶっちゃけどっちでもいいんすけどねー」
 羽鳥はくつくつとあたしの耳元で笑った。
 ――ていうか息! 耳に息が掛かる!
 触れてもいない筈なのに身体に電気が走ったような気がして、あたしは思わず自分の腕を抱いた。
「で、先輩はどっちがいいと思います?」
にっこり笑いながら言う羽鳥には少し余裕が垣間見えてちょっと悔しい。
 でも……この飄々としたところも好きだなんて。あたしはビョーキか。
「えーと……とりあえず掛けてみてよ」
赤くなった頬を隠すように、あたしは俯きながら言った。
「はーい。銀縁からいきますねー」
 羽鳥は別にそんなあたしの行動は意に介してなどいないようだった。あたしはそれを見て少々ほっとした。
「どうです?」
 銀縁眼鏡をかけた羽鳥が聞いてきた。
「うーん……似合わなくはない。けど何かが違う……かな」
「あー先輩もそう思います?なんか俺にしては堅すぎるってかんじ?」
 羽鳥はもともとの顔の造作がものすごく良いので大体のものは似合ってしまう。けれど確かにやっぱり何かが違う。あたしのイメージする羽鳥の役はインテリ系だけど、どこか遊び心のある若い優秀な上司だ。これだとただの真面目に見える。
「だよねぇ。……よし、次は黒縁行ってみよう」
 羽鳥は少し残念そうに銀縁眼鏡を置いた。そして胸ポケットに入れていた黒縁眼鏡を出そうとして――、
「うわっ」
「きゃっ何!?」
手元が狂ったのか、それはふたりの間にカシャンと音を立てて落ちた。



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