放電
「もー何やってんの」
 すぐにしゃがんで眼鏡を拾う。
「すんません。ありがとうございます」
 羽鳥はそれを受け取ろうと手を出した。あたしもすぐにその手に眼鏡を置こうとして――固まった。
 今更になって昼の会話を思い出す。
 “好きな人に触れると身体に電気が走るとかさぁ、そんな非科学的な現象が起こるわけないじゃん”
 “あんたバカ?そういうのは単なるものの例で、実際電気が走るわけじゃないのよ?”
 “そうなの?”
 “そーよ。なんなら試してみたら? “羽鳥くん”で”
途端にあたしは沸騰した。
 バカ、なんで今それを思い出す!?
「先輩、どうしたんすか?」
 フリーズしたあたしを羽鳥が心配そうに覗き込んでくる。
 それを見てあたしの心臓は大きく音を立てて波打った。
 うわ、いまそれ逆効果! 
 そんなあたしの心の声が聞こえるはずもない羽鳥は心配顔を徐々に、怪訝な表情にシフトし始めている。
 あたしは彼にこれを渡さないわけにはいかない。
 えーい、ままよ!
「ごめん! 何でもないから! それよりこれ!」
 勢いのまま彼の手に眼鏡を置く。その瞬間。
 甘くもどかしい痺れのようなものが走った。心拍数が弾けるように一気に上昇して、あたしは固まった。
 ……何これ何これ。電流どころじゃないじゃん。一瞬で身体の隅々まで色んなものが巡るかんじ。恥ずかしいんだけど、クセになりそうな感覚。








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