放電
『帯電』―放電おまけ―
「わぁ……辻井、見てよアレ」
何かを発見したらしい、演劇部の同級生である里内に袖を引かれる。
 後輩とのお喋りを中断させられたあたしは渋々といった態で振り返った。
「何よ、今お喋り中よ」
 里内はあたしの眉間の皺に苦笑しつつ、
「でもあんた、こういうデバガメ的なこと絶対好きそうだし。ほら見てよ相川と羽鳥」
「はぁ? ……て、うーわ、何あれぇ」
言われた方を見てみると、ちょうど相川が羽鳥に眼鏡を渡しているところだった。やっていることとしてはただそれだけ。たったそれだけのことなのに、
「……なんであの空間だけピンク色な訳ぇ?」
「だよねぇ。なんか2人共考えてることがだだ漏れっていうかさー」
「ねー。相川はすぐテンパるから得に分かりやすいけどぉ、羽鳥も相川とふたりのときには妙に浮かれてるからバレバレなのよねぇ」
「あー分かる分かる」
里内と一緒になってからかいつつも、あたしは思わずその光景に目を細めた。
あんな初々しい恋愛って、そういえばあたしはしばらくご無沙汰な気がする。あたしだって昔は隣の席の好きな人に教科書見せるだけでドキドキしたり、あいさつできただけで跳びはねるほど嬉しかったりしたときもあったのに。
「いいなぁ」
思わず出た言葉に自分で苦笑する。これじゃ今の彼氏に失礼すぎる。それに何より、らしくない。
「何か言った?」
 怪訝な顔をする里内にあたしは何かをごまかすように、
「べっつにぃ~?」
と敢えておどけて返事をしてみせた。



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