Six Room
プロロ―グ*それぞれの始まり*

room 1


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河村 美智子







昨日43才になった








小さい頃
誕生日は“特別"な日で



友達にプレゼントを
貰ったり



パーティーを開いたりもした








ママが作ってくれた
誕生日ケーキに

自分の歳の数だけ
立てられたろうそくも

家族の"おめでとう"も


全部が嬉しかった








誕生日ケーキのろうそくが
毎年一本一本
増えていくたび







私はちょっと大人になった気分で








誕生日はいつも"幸せ"だった


























さすがに
もうこの歳になると
誕生日をわざわざ
祝ったりもしないし






“おめでとう"
と言われる回数も
減ってきた











35を越えてからぐらいは

何も変わらず





ただ歳を重ねて
おばさんになっていくだけで






“特別"だった誕生日は

“普通の日”になってしまった












それでも
娘だけは“おめでとう"
と毎年言ってくれていた









その唯一
私の生まれた“特別”な日を
祝ってくれていた娘も





昨日家を出ていってしまった









娘が“おめでとう"と
言ってくれなかったのは









43年間生きていて
初めての事だった









大事に大事に
愛情を注いで育ててきた
たった1人の娘が




どこの馬の骨かも知らない
いけすかない男とかけおちした事より









ずっと



“おめでとう"がない事の方が
辛かった









いつも笑いが耐えなかった
我が家から音が消えた




部屋を見渡すと
娘の小さい頃の写真や
娘の使っていた色んなものが



沢山残ったままで










それがいっそう




20年間
娘と“2人”で過ごしていた
狭い家に私は突然に
“1人”になってしまった事を実感させた










ただただ私は呆然と
娘の面影の中に立ち尽くして


















なんだか途端に空虚になった心の奥で

















ふとこの感覚を知っていると思った
























ただ何も出来ず立ち尽くす
惨めで空虚なこの感覚が












私に"あの頃"を思い出させる


































人生で二度目の"1人ぼっち"に

今度ばかりは立ち直れないと思った


































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