よっしゃ、恋愛小説を書こう




昼休みが終わって教室に戻っても、放課後になっても、部活中も、あたしは啓介を見られなかった。

さとこと啓介の仲を勘違いしてたせいもあるのかもしれないけど、二人がそうなってるって勘違いしてたとき、自分がどんな風になにを考えてたのか。

思い返せば思い返すだけ恥ずかしくて、それこそまるっきりみことみたいで、「なんであたしがっ」て思っちゃって、どうしょうもなかった。

だから、部活が終わっても啓介とどう顔を合わせていいかわからなくて、ひとりで先に帰ろうとした。

そしたら、教室に忘れ物をした。

実は昼休み、体育館裏から戻るのが遅くて、お弁当箱をカバンに入れず、机の横にテキトーに引っ掛けたままだったんだ。

ははは。笑えない。慣れないことするもんじゃないや。

がらりと開けた教室の中は、人がいなくてがらりとしていた。

部活が終わるのは七時前だから、教室の中はすっかり暗い。電気をつける。

あたしの机の横に、かけたままのお弁当箱。ここからでも見える。

「あたしもバカだね」

早く学校を出て啓介と鉢合わせないようにと思ったのに、忘れ物をしたんじゃ結局いつもの時間になってしまう。

今日は、帰り道変えようかな……。

そんなことを思いながらお弁当箱を回収する。

そこで、無意識にちらりと見やる、啓介の机。

その、収納のところ……。

おくまで突っ込んでないのか、プリントの束や教科書のはしが見える。

それに混ざって……

啓介がいつも読んでる、『吾輩は猫である』が。
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