よっしゃ、恋愛小説を書こう
「え、ちょっと待って、ちょっと待ってよ、待って待って、落ち着け、あたし……え? ええ?」

毎日毎日、ずっとずっと、啓介はこの本を読んでた。

でも、それはひょっとしたら、『我輩は猫である』っていう物語を読んでたんじゃなくて。

ここに書き込まれてる、あたしとの思い出を振り返ってるんだとしたら……?

仮にそうだとしても……ずっと、ずっと……ずうううううっと?

「……」

想像して、想像して、想像したら想像するだけ、頭から湯気が出そうになった時。

「人の机のもん、勝手にあさるな」

「あひゃいっ」

いちいち振り返って確認しなくてもわかる、そいつの声がした。

啓介が、ずんずんと教室に踏み込んでくる。

その目が、あたしの手の中にある文庫を見つめる。

「……中、見たのか」

「ちょ、ちょびっと」

「うそつけ」

「ごめんなさい。めっちゃ、半分ぐらいまで一気に見ました」

「そっか」

啓介が、すっと手を伸ばしてくる。

「返せよ」

「あ、うん。……ねえ啓介、それ」

「むかーしさ」

「あ、うん」

質問しようとしたら、啓介が突然、話し始めた。

懐かしそうな表情で、受け取った文庫本を見つめる。
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