よっしゃ、恋愛小説を書こう
「俺のこと好きって言ってくれる、めちゃくちゃ素直な女の子がいたのな。俺、毎日そいつと遊んでてさ。毎日毎日、将来は結婚しようねとか、なんの疑いもなしに約束してたんだよ」

「ふ、ふーん」

他人事みたいに相槌打ってるけど、それ、あたしだよね!?

「でもさ、そいつ、小学あがってから急に生意気ンなって、絶対俺には負けないとか言い出して、野球始めるし。走り込みはするし。バカとかアホとか、かわいげのねえことばっか言うようになるし」

「ふ、ふう~ん?」

だからそれ、あたしだよね。

なんて心の中で突っ込んでいたら、啓介が顔をあげた。

その真剣な目は、彼が、ここ一番で最高の一球を投げるときより、ストレートだった。

「だから俺さ、決めたんだよ。バカとかアホとか言ってるコイツが、また俺に、好きだよって言ってくれるくらい、がんばろうってさ。な? 笑っちまうだろ?」

「あっ、あははっ、そうだね。笑っちゃうね、それ、ね! あははは!」

「だろ? な? ははははははっ!」

そう言いながら、こんなにぎこちなく笑いあったのは、初めてだよ。

乾いた、わざとらしい笑いが二人分、教室に響く。

やがてしぼむ。

静まる。

それを打ち払ってくれるクラスメイトはいない。

みんなとっくに帰ったから。

あたしと、彼だけ。
< 34 / 39 >

この作品をシェア

pagetop