最後の世界がきみの笑顔でありますように。
◇episode snow〜雪
12月。冬休み真っ只中のあたしは、望と病院から帰る道のりである川沿いを、望と手を繋ぎながら歩いていた。
病気の進行が進み、一人では出歩けなくなってしまったのだ。
覗き穴を覗いているような感覚だ。横の視界は全く無い。見えるのは正面だけだ。
本当に少しずつだから、視野が狭くなっていくのが自分で分かるわけでは無いけど…。
今実感する。もう時間は無いって事。
「お姉ちゃん、見て見て、雪だよ!」
望を見ると、目を輝かせて空を見上げている。
あたしも目を懲らして空を見上げると、白い小さな粒がハラハラと舞い落ちてくる。
「…綺麗………。」
この雪は…あたしが人生最後に見る雪なのだろう。
しっかりと目に焼き付ける。
「お姉ちゃん、寒くない?」
望の心配そうな声が聞こえる。あたしは笑顔で首を横に振った。
「大丈夫。寒くないよ。」
あたしは雪に手を伸ばした。あたしの手に触れた雪は、一瞬にして溶けてしまう。
儚い物だな…。だからこそ、美しいのだと感じられるんだ。
「望、少し川を見てくる。」
「え?お姉ちゃん!?」
望の返事も待たずに、川に近付いた。