最後の世界がきみの笑顔でありますように。
「幸お姉ちゃんっ!!」
遠くから、柚ちゃんの声が聞こえる。
「行こうーっ!!」
「幸お姉ちゃん置いてくよーっ!!」
続いて、秋君と翼君の声だ。
複数の足音が、あたしに近付いてくる。
今日はこれから、皆で陽のお墓参りに行く約束をしていたのだ。
「…また…何て顔してんだよ。」
ピンッ
「痛っ!」
おでこを誰かに弾かれる。こんな事するのは、一人しかいない。
「…七瀬………。痛いんだけど!」
「お前が悪い。」
そう言って手を握られる。大きくて、包み込むような手。これは…七瀬の手だ。
「…今から陽先輩に会いに行くってのに、変な顔してんなよ。」
七瀬の言葉に、あたしは小さく笑う。
「失礼だな。先輩をもっと敬ってよね。」
「そうやって笑っとけ。そっちのが良い。」
そう言って七瀬は、あたしの頭を優しく撫でた。
「…七瀬…………。」
あたしが苦しんでいた時、七瀬はずっと傍にいてくれた。
七瀬の気持ちには気付いてる。でも…あたしはその気持ちに応える事は出来ない。世界でたった一人…。
陽だけを愛するって決めたから。
七瀬もあたしには何も言わない。ただ傍にいてくれると…そう言ってくれた…。
いつか…七瀬にも、いい人が現れればいいと心から思う。
死んだ人間をずっと愛しているあたしなんかより…。七瀬だけを見つめて、愛してくれる人と出会ってほしい。幸せになってほしいから…。