*短編小説*花びらを胸に
言い伝え
むかしむかしの言い伝えです。
それは一部の人々しか知りません。
春に咲く桃色の花びらを胸にあて、想い人の名を呟いた後に川に流すとその人に気持ちが伝えられるという言い伝えです。
それがどんなに遠い場所にいる人でも…。
川には特殊な力が眠っていると言われており、それは想い人同士を引き合わせるとか…。
古人は言いました。
『川には精霊が宿っている。だから彼らが私の気持ちをあの人に伝えてくれるのだ』
真実なのかはわかりません。
この古人がこの後想い人に巡り合えたかどうかも記されていません。
しかし人々はこの言い伝えを語り続けました。
そしてその話は
独りの少女に
知られるのです。
愛する人を亡くした、哀れで悲惨な彼女に…―――――。