宿題するから利用して


「たまにはうちらも一緒帰ろっかー? 結衣ら尾行する?とか。あはは」

厚めな長い髪が右に垂れ、覗いた左側の額から持ち上がった黒いまつ毛に縁取られた瞳が俺を撃つ。


「二人んデートさ、邪魔してみない?」

悪魔みたいに笑う女の子。
忘れていた、小崎里緒菜こそ田上結衣との接点を作ってくれた人間なのだと。




『結衣、大塚君頭いいから勉強教わりね?』
『結衣、大塚君テスト勉強会してくれるって』
『結衣、大塚君ノート貸してくれるって』


結衣、結衣、結衣。
大好きな子の名前を聞かせてくれる小崎里緒菜は、俺にとって特別な存在だったではないか。

そう、見ているだけだった田上結衣とのかかわりを作ってくれたのは、一年生の時に隣の席だった人。

ヘタレな少年に初恋をくれたのは小崎里緒菜だった。



『ありがとう、大塚くん』

あの子の音をしていて初めて、その一言に意味がある。

田上結衣は魔法使いだ。
とけない術をかけて簡単に恋をさせてしまう。

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