五里霧中



「やだ……やだよ、やだよ……怖いよ………」


クロの大きな瞳から幾筋もの涙があふれ出す。


僕はそれを一つ一つ指先で拭い、もう一度強く少女を抱きしめた。


「なにも心配しなくていい。僕が全てを変えてあげるから」


耳元でそう囁き、小さな体を放す。


クロは糸の切れた人形のように布団に横たわり、そのまま動かなくなった。



……なんだか異様に暑い。


今日もどうやら猛暑になるみたいだ。


淀んだ空気を排出するために窓を開ける。


外ではすでに蝉たちの大合唱が始まっていた。



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