五里霧中



「アルファ」


不意に声がかけられる。


後ろを顧みると、そこには件のお兄さんが立っていた。


「夕方からは雨が降るんだって。そんなとこにいたら風邪ひくよ」


と、中庭に立ち尽くすボクに微笑む。



池の中を泳ぎまわる小さな金魚に一瞥をくれてから、お兄さんのいる縁側へ足を向けた。


「それじゃあ洗濯物をしまっておかないといけないですね」


「あー……そっか。忘れてた」


「忘れてたじゃないですよ。ボク、取りこんできます」


「いってらっさーい」


お兄さんのやる気のない声援に見送られて、ボクは廊下を闊歩する。


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