スノードロップ
06.仲直りの印
 相当な努力のおかげで家に着く頃には涙も乾いていたけど,あたしの心はぐちゃぐちゃなままだった。

幸基のことは諦めるって決めた。
だけど―恋愛に理性は無効。
だって,幸基をどうやって諦めればいいのかさっぱりわからない。

ずっとずっと,想ってきたんだから。

そんな簡単に諦めきれるはずなんかなかった。

しばらく制服も着たままで,自分の部屋のベッドに力なく座り込んでいた。

目の前の雨水で少し汚れた窓ガラス越しに,お隣戸田家の幸基の部屋が目に入ってきた。

気がつけばすっかり日が暮れていて,無駄な物がないせいかきちんと片付いた幸基の部屋に,薄闇が漂い始めていた。

突然,帰り道の,オレンジ色に包まれた記憶が静かに蘇る。

幸基の手から逃れたときのことを思い出すと,こんなにも胸が苦しくて―やっぱり好きなんだなって思い知る。

本当は,幸基のあったかさを忘れたくない。

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