スノードロップ
 「はいはーい」

お母さんは至って普通に呟くと,雑誌を閉じて立ち上がり,小走りに電話を取りに行く。

急に鼓動が速くなり,さっきの感覚に胸騒ぎを覚えたあたしの目が,勝手にお母さんの姿を追いかけた。

「あら,早苗さんの携帯」

電話機に表示された番号を見て,お母さんが独り言のように呟くのが聞こえた。

早苗ちゃんか―。

特に理由はないけど,なんだか安心して胸を撫でおろした。
早苗ちゃんから電話がかかってくることは,そんなに珍しくない。

つい2日前も,
「チーズケーキ焼いたから食べにこない?」
って,うきうきした声で電話してきたばっかりだったし。

「もしもし?」

お母さんが砕けた調子で電話に出て,あたしは自分の膝に視線を落としながらなんとなく耳を澄ませる。

電話越しに,早苗ちゃんの声が聞こえてきた。

あまりよく聞き取れない。
でも―

早苗ちゃん,泣いてる?
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