スノードロップ
 実をいうと,あたしは幸基の死顔をまだ見ていなかった。

理由は―わかってる。
幸基の顔を見たら,涙が止まらなくなるだろうから。

幸基の顔を見るより先に,棺のそばに立つおじさんと早苗ちゃんをちらりと見た。
2人とも,真っ赤な目をしてる。

ひとり息子を失ったのだから―当然だろう。

それなのに,おじさんも早苗ちゃんもあたしににっこり微笑みかけてくれて―

それを見たとき,思い出した。
―「父さんも母さんも雪希のことは本当の娘みたいに思ってんだからさ」。

幸基が死んだという知らせを受けて以来初めて,涙がこぼれそうになった。

おじさん,早苗ちゃん。
辛いのに…無理しないで。

胸の中でつぶやき,大きく息を吸い込んで目をかたく閉じた。

相当な覚悟をしないと,幸基の顔を見れなくて―。

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