スノードロップ
09.ばいばい
 ゆっくりゆっくり目を開けると,そこには―たくさんの花に囲まれた,幸基がいた。

あたしの,大好きな人がいた。

「幸基…」

小さな声で名前を呼び,震えながら1歩近寄った。

目に見える外傷といえば,右頬のすり傷だけ。
車にはねられたなんて,冗談としか思えない。
しかも,もう息をしていないなんてなおさら…
寝てるだけって言われたら,信じてしまいそうだ。

それくらい,幸基はいつも通りで―
起き上がって,あたしに「ばーか」って言ってきそうなのに。

幸基―

不意に,涙が溢れてきた。
最後に幸基と帰ったときと同じで,こらえる暇なんてなかった。

「ほらね…やっぱり」

震える手で,握りつぶさないうちに菊の花を幸基の顔の横に添える。

「わかってた。幸基の顔見たら,涙が出るって」

幸基の頬に,そっと触れた。
その冷たさに,一瞬ひるむ。

「だから幸基の顔見れなかった。あたしたちが4日も顔合わせないなんて,初めてじゃない?」

これからは,それが当たり前になっちゃうんだね。

それも,4日どころじゃない。

ずっと。

永遠に。

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