スノードロップ
 涙が,幸基の鼻の頭にこぼれ落ちた。

「幸基…あたし,謝りたかったんだよ?幸基が帰ってくるの,ずっと待ってたの。ずっと…待ってたんだよ?」

もう,帰ってこない。

蘇る,オレンジ色の記憶。
振り払った,幸基の手。

「ごめんね…?」

震える声を,絞り出した。

あたしが謝っても,幸基は表情ひとつ変えてくれなかった。
静かに瞼を閉じたまま―
その瞳はもう,あたしのことを映してはくれない。

「あたしね…幸基のこと,大好きだったの」

ううん,今も大好き。

「あたしまだ…なにも伝えてないのに…」

もう,伝えられない。

「行かないで」

伝えたかった。

「あたしのこと,一人にしないでっ…」

大好き。

「こんなの嫌だよ!幸基っ…」

大好き,幸基。

ごめんね…


伝えたいことが届かないのって,こんなにも辛いことだったんだ。

届くことのない幸基への想いは宙に漂う。

泣き崩れるあたしを,おじさんと早苗ちゃんが―支えてくれた。
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