スノードロップ
 「見すぎ」

幸基がそう言って,あまりに長く見つめるあたしの額をぴん,とはじいた。
本気でではなく―優しく。

「…なんでもない」

小さな声で呟いて,ちょうど辿り着いた自分の教室に逃げるようにすべり込んだ。

「なんかおかしーぞ,雪希?…いつにも増して」

「最後のひとこと明らかに余計っ!」

にやつく幸基にそうわめきながら,せかせかと帰り支度を始める。

「んなことねーよ」

幸基は笑いながらそう答えると,窓枠にひらりと腰かけ,外の景色にすっと目をやった。

昼下がり,あたしたち以外は誰もいない教室。
秋の,はちみつみたいな金色の陽光が窓際の幸基を包み込んでいる。

それを見たあたしはなぜか―そのまま幸基が光の中に消えてしまう,そんな錯覚を覚えた。

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