スノードロップ
03.壁
 「…―雪希?」

気がついたら,幸基の腕を掴んでいる自分がいた。
ちょうど首に巻こうとしていたマフラーが,あたしの後ろの床に無造作に投げ出されている。

「あ…ごめ…」

慌てて手を離し,言い訳のしようもなくてそそくさとマフラーを拾い上げた。

背中に幸基の視線を感じてやりきれない。

ねえ幸基,何か言ってよ―。

「冗談抜きでお前変だって」

祈りが通じたのか,幸基が真面目くさった調子で口を開いた。

「ん…ごめんね。何でも…ないから」

マフラーの埃を払い,幸基に背を向けたまま答える。

だって自分でも今の行動の意味がわからないのに,弁解なんてできるわけない。

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