スノードロップ
 「種,買いに行くんだ。や,種ってか球根?」

ええ?急にガーデニングに目覚めちゃったの?

と,そこで気づいた。
ガーデニングといえば,早苗ちゃんの趣味だ。

早苗ちゃんは幸基のお母さんだけど,あたしは小さい頃からずっと,なぜか"早苗ちゃん"って呼んできた。
幸基のお父さんのことは"おじさん"って呼ぶのに,なぜだか早苗ちゃん。

まあとにかく…早苗ちゃんに頼まれたんだろう。

あたしはやっと納得して,幸基の袖を軽く引っ張った。

「じゃっ,途中までね。帰ろ」

「おう」

にっこりする幸基。
あたしと幸基は,夕日に照らされた教室をあとにした。遠くから,野球部のかけ声がかすかに聞こえてくる。

…―そんな細かいことまで,きっちり覚えてる。

忘れるはずないの。

だってその日は,あたしが幸基と過ごした最後の日になったんだから。

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