ありがとうさえ、下手だった
ところが彼女は俺を呆けた顔で見つめながら繰り返す。
「なんで…。なんで…?」
なんでだと?
そんなの決まっている。
「お前が殺せと言ったんだろう」
彼女の顔が血の気を失って陶器のように白くなる。
「あ、わた、し…。私…っ」
くずおれるその姿も、その涙も、意味がわからない。
自分から依頼してきたくせにどうして後悔するのか。
それは闇の頂点で生きる俺には一生理解できないことだろう。
組織に戻ってくると、俺が普段座っている椅子にラビットが腰かけていた。
「…おい」
その後ろ姿に呼びかけると、彼女は椅子を回転させてこちらに向き直る。
返り血の付いた服を着替えたらしい。
それにしても、つくづく殺し屋という職業には似つかわしくない服装だった。
「お帰り、刹那さん。何かあった?」
なぜそんなことが言えるのだ。
「眉間のしわ、いつもよりひどいよ」