ありがとうさえ、下手だった


指摘されて人差し指で眉間をなぞると、確かに深くしわが寄っていた。
相当険しい顔をしていたらしい。

「それより、そこをどけ」

「はいどうぞ」

意外と簡単に彼女は席を譲った。
しかし彼女の表情もまた険しい。

「お前こそ何かあったのか」

ラビットは口を開きかけて言い淀む。
赤黒いウサギを腕の中で強く抱きしめて、意を決したように呟いた。

「…考えてたんだ。夜十の、こと」

「落ちこぼれの?」

何を考えることがあるのかと思ったが、彼女の真剣な口ぶりからすると軽い話でもないらしい。
あんな奴のことを考えている間に何人殺せるだろうと考える。


机の上には新しい依頼状が来ていた。

「夜十、あの女の子といてすごく幸せそうだった。いつも全然笑ったり泣いたりしないけど、すごく楽しそうだったの」


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