ありがとうさえ、下手だった
早く殺してしまえばいいものを、あいつはためらってしまったのだろう。
あいつが殺す予定の少女は、声が出ない。
そのことを知れば依頼を遂行することは難しくなるだろうと思い、あえて何も言わずにいた。
声が出ないとわかれば、あいつが何かしらの感情を少女に持つことはわかりきっていたからだ。
「それを見てて思ったの。夜十はきっと、光の中の方が似合うね」
「知るか」
あいつのことなど知らない。
あいつがどうあるべきかなど、俺が決めることではない。
俺が勝手に命を救い、そしてその命を磔にするようにじわじわといたぶった。
自分で死ぬ勇気もないあいつはまだ生きている。
今まで殺し屋を続けてきたことの方が不思議だった。
人を殺すことに罪悪感を抱くあいつは、いつここを出ていってもおかしくなかったのだから。
最も俺は、あいつが俺を殺すためにここにいることを知っている。
知っていてなお、痛めつけるような真似をする。
依頼書の数は膨大なのに、書いてあることを要約してしまえば一枚で済んでしまいそうだ。
それほどにここにある人々の欲望は同じようなものばかりだった。
読む価値もない、つまらないものだ。